古来、日本ではあらゆる場所、あらゆる情景に人の介入できない世界があり、その世界への畏怖を抱いて敬い、それぞれの領分を侵すことなく関係性を保っていました。
森には木霊が、河には河童が、山にはでいだらぼっちが。
子供のころから聞かされる日本の風土に合った妖怪や幽霊たちへの怖れは近代になればなるほど薄らいでおり、オカルトだと笑われ信じる者は少なくなっています。
ですが、今でも体の不調や突然の凶事が続くと私たちはそれらを憑き物のせいではないか、と根源的に思ってしまう人は少なくありません。
有名どころは狐憑き、それがいかなる状態なのか、今一度改めるのも良いかもしれませんよ。
狐憑き、とは
狐は人を化かし謀る名人であるとされるのは、有名な大妖怪が狐の化身であったからであり、妖狐は狡猾で残忍、人に憑けば憑り殺してしまうと思われていました。
ある日突然、あるいは徐々に徐々に露見し手の付けられない精神異常や錯乱状態、前後不覚の状態の人間を「狐に憑かれた」「狐憑き」だと称し、お祓いを受けその人のみに恐ろしいことがなくなりますようにと願ったのです。
ですが、多く狐憑きとは現代でいう精神病や診療系の疾患を患いこじらせたものが多く、祓ったからと言って改善がみられるものは少なかったようです。
また家系によっては狐憑きであることが良い風に左右される家柄もあり、狐が守護霊のように家を守ると信じられている地方もありました。
管狐やオサキ、人狐などが憑くと狐を遣って富を得て、にくい相手を病気にしたり破滅させる大きな力を持つと考え、信じられていたのです。
実際、信仰による呪いがもたらした悪意が影響し事件に発達した記録はさまざまにありますが、現代においてもその実態を解明できないものが多く、古くから本当に呪いや憑き物は本当に存在することなのかもしれません。
狐憑きと思われる人の特徴
狐憑きだと思われる人は、そのほとんどが精神に異常をきたしており、錯乱状態や情緒不安定であるとされます。
自分の行動や発言、周辺状況の認識が朧であり道徳や日常生活の整合性を失い、現代でいうところの統合失調症の症状と酷似していますが、関係性は明らかではありません。
統合失調症の患者は自分は正常であると認識している人が多く、適切な治療を受けてなお自分の病勢を理解できない場合があります。
癇癪を起こしたり人の手が付けられない状態に陥ることもしばしばで、投薬による精神の安定を保っていなければ、狐憑きそのものであると、昔の人が見ればそういうでしょう。
狐憑きは上記に連ねた症状もさることながら、極度に怒ったり、異常なほどに笑ったりする際に表情が人間離れした鬼の形相に代わり、憑き物の狐が表面上に現れているからだといわれます。
憑き物と関わる
いずれにせよ、人間側からして『憑き物』の類は歓迎された事ではなく怖れて然る現象でした。
例えそれが力を手に入れる家系の妙であれ、突然に起こった災難であれ『狐憑き』が人の世でプラスに働くことはありませんでした。
触らぬ神にたたりなし、近寄らなければ祟らず脅かさず、自ら行動してマイナスに足を踏み入れるのは決して賢い行動ではないことは心に留め置くとよいでしょう。
迷信だ、ありえない、非科学的だと論じるは結構ではありますが、実際身の上に起きたとして人間のいかなる英知も及ばない状態を陥ることになるかもしれません。
興味本位で『憑き物』に触れるときはくれぐれもお気をつけて。